Service Design
UX/UI Design
担当範囲
サービスデザイン(構想整理・意思決定支援・HCD導入)・UXデザイン(定性&定量リサーチ設計)・UIデザイン(ラピッドプロトタイピング)
背景
私が所属する企業で、生成AIを活用した採用支援サービスの開発プロジェクトが立ち上がりました。
背景には、既存サービスが人的支援を前提としたハイタッチな運用となっており、顧客数の増加に対してマンパワーだけでは十分な支援を提供し続けることが難しくなっていたことがあります。そこで、人的支援とテクノロジーを組み合わせた新たな顧客体験の実現が求められていました。
一方で、社内では生成AI活用への期待が高まっており、その適用先として当該サービスにおける特定のプロセスがテーマとして挙がっていました。しかし、プロジェクトは「生成AIを活用する」という手段が先に存在しており、顧客が本当に抱えている課題や、その課題をどのような体験で解決すべきかという議論は十分ではありませんでした。
私はサービスデザインを軸とした立場でプロジェクトへ参画し、ユーザー理解や体験設計を担当すると同時に、PdMとの壁打ちを通じた言語化・構造化・可視化を繰り返しながら、プロジェクト全体に伴走する役割を担いました。
今振り返っても印象的なのは、プロジェクト初期の多くの時間をホワイトボードの前で過ごしたことです。PdMと二人で会社のホワイトボード一面を埋め尽くすほど議論を何度も重ね、「そもそも何を解決したいのか」「AIを使う理由は何なのか」という問いを繰り返しました。
本プロジェクトで目指したのは、「AIによる新機能」を作ることではありません。顧客が抱える本質的な課題を理解し、その上で最適な体験を設計すること。そして、必要な手段としてAIを活用するという、人間中心設計(HCD)のプロジェクトへとリフレーミングすることでした。
ポイント
本プロジェクトで重視したのは、「探索」と「検証」を切り分けて進めることでした。
対象となる法人顧客は業界や企業規模、採用手法などが幅広く、初期段階から大規模なリサーチを行ってしまうと、多くの時間とコストをかけながら十分な示唆が得られない可能性があります。また私の所属企業において担当部署以外が顧客と直接コミュニケーションを取ることが難しいという組織的な制約もあり、気軽にリサーチを実施できるとは言い難い状況でした。
そこで私からPdMへ提案したのが、「探索型リサーチ」と「仮説検証型リサーチ」の二段階で進めるアプローチです。
まずは自社の営業担当やカスタマーサポートへのインタビューを通じて間接的に顧客像や課題仮説をスピーディーに整理する。その結果をもとに、本当に調査すべきポイントを絞り込んだ上で、外部リサーチ会社と連携した本格的な定量・定性調査へ進む構成としました。
また、調査結果を単なるレポートで終わらせず、サービスブループリントやユーザーストーリーマッピング、ラピッドプロトタイピングまで一気通貫でつなげることで、「ユーザーの声」をプロダクトの意思決定へ変換することを意識しました。
プロセス
具体的なUIのイメージからそもそもの課題定義といった抽象度の異なる、UX5段階モデルでいう戦略から表層すべての段階における議論をホワイトボードを用いて何度も描き出す日々が続きました。
探索型リサーチでは私自身が調査設計を担当し、営業担当とカスタマーサポート6名へのデプスインタビューをPdMと分担し、短期間で実施しています。目的は「正しい答え」を探すことではなく、「どこに答えがありそうか」を見つける、まさに探索的アプローチでした。この調査によって、顧客の採用担当者だけではなく、自社の営業担当やカスタマーサポートを含めた活動全体の流れが可視化され、議論が個別機能ではなく一連の体験へ向く土台がこの段階で整いました。
探索型リサーチによってターゲット像が明確になった後は、私自身がFigmaでプロトタイプを作成、加えてその仮説を検証するための定量調査・定性調査を設計し、実査は外部リサーチ会社へ委託しました。分析を進める中で見えてきたのは、先述の「特定のプロセス」そのものよりも、その前後で発生する情報共有や意思決定のプロセスに改善余地があるということでした。
この発見を受け、サービスブループリントへ新たなステークホルダーを追加し、当初はAI機能単体を対象としていた議論が、顧客企業における採用活動全体を対象とした体験設計へと広がっていきました。
最終的にFigmaのフレーム数は1,200を超えています。プロトタイプだけではなく、概念図やサービスブループリント、承認資料なども含め、デザインツールというより、プロジェクト全体の思考を蓄積するワークスペースとしてFigmaを活用していました。
プロトタイプを用いた検証では、AI機能そのものへの理解だけでなく、新たに設計した体験全体への評価も確認しました。その結果、体験の方向性には高い共感が得られた一方で、AIそのものへの理解度や心理的な反応に個人差があることも判明しました。
そこで私は、「AIを前面に打ち出すプロダクト」にするのではなく、「自然に使っていたら結果としてAIが活用されていた」と感じられる体験を目指すべきだと提言しました。技術を主役にするのではなく、あくまでユーザー体験を主役にする。この考え方は、その後のUIや機能検討においても重要な判断軸となりました。
まとめ
本プロジェクトは、生成AIという技術ありきで始まったプロジェクトでした。しかし、探索型リサーチから仮説検証、サービス設計、ラピッドプロトタイピングまでを高速に繰り返したことで、「AIによる新機能を作るプロジェクト」ではなく、「企業の採用活動の体験を改善するプロジェクト」へとリフレーミングすることができました。
結果として、当初想定されていた機能提供の枠を超え、採用活動全体へ影響を及ぼす改善案としてプロジェクトの承認を得ることができました。
私自身、このプロジェクトではサービスデザイナー、UXデザイナーという肩書きに収まる仕事はしていなかったように思います。PdMの壁打ち相手として問いを整理し、リサーチを設計し、構造を可視化し、体験を描き、必要に応じてプロトタイプを制作する。その時々でプロジェクトに必要な役割を引き受け続けることが、自分に求められていた価値でした。
また、限られた期間の中でHCDサイクルを高速に回したことについては、実査を担当した外部リサーチ会社からも「このスピードで設計から分析まで実施した例はほとんどない」と評価をいただきました。技術ありきではなく、人間中心設計を軸にプロジェクトそのものを前進させた経験として、現在でも私にとって印象深いプロジェクトの一つです。