Design Management
担当範囲
デザインマネジメント(育成ロードマップ設計・コーチング・内省支援)
背景
私がマネージャーとしてデザイン組織を担当していた頃、デザイナー職の中途採用も並行して担当していました。
そこで強く感じていたのが、「経験者採用だけでは今後必ず厳しくなる時がやってくる。その時のためにジュニア層の育成ができる土台を作っておく必要がある」ということです(今でこそAIの対等によりデザイナーのキャリアについての議論は絶えませんが、本取組はまだAIという単語をほぼ耳にしない時のものです)。
中途採用に携わっている中で、優秀なデザイナーほど複数社から内定を獲得しており、採用競争が年々激しくなっていることを肌で感じていました。一方で、インハウスデザイン組織は受託制作会社と比較すると、新規制作よりも運用・改善が中心となるケースも多く、またデザイン以外の業務も増加傾向にあるため、デザインスキルを伸ばす機会を意識的に作らなければ成長が停滞しやすいという特性があります。
「経験者を採用する組織」ではなく、「未経験者・微経験者でも育ち、活躍できる組織」に変えたい。そんな思いから、育成の考え方そのものを整理し、育成ロードマップの作成に着手しました。
当時の私は、より良い育成のあり方を模索する中で国内のコーチング資格も取得しています。資格取得には100時間を超えるトレーニングと実践経験が必要かつ有資格者との実技試験を突破する必要がありましたが、目的は資格そのものではありませんでした。私が身につけたかったのは、「教える技術」ではなく、「相手が自ら成長し続けられる状態をつくる技術」でした。
ポイント
本取り組みで最も重視したのは、「育成とは何か」を改めて整理することでした。
デザインスキルというと、デザインツールの操作やレイアウト・タイポグラフィ・配色などの制作スキルが注目されがちです。しかし、それだけに注目していては長期的に成長し続けるデザイナーにはなれません。
そこで私は、デザイナーに必要な能力をハードスキル・メタスキル・ソフトスキルの3つに整理し、さらに「形にする力」「変換する力」「生み出す力」「自覚する力」「自己推進する力」の5つの能力として育成ロードマップを設計しました。
中でも重視したのは、「自覚する力」と「自己推進する力」です。インハウス組織では(時にはノンデザイナーに)マネージャーが変わることもあれば、プロジェクトによって十分な育成時間を確保できないこともあります。そのような環境でも成長し続けられるよう、「教えてもらわないと成長できない人」ではなく「自分で課題を見つけ、学び続けられる人」を育てることを育成のゴールに据えました。育成の考え方としては、中原淳氏が提唱する「業務支援・内省支援・精神支援」の3つの支援をベースに、単なるスキル指導ではなく、継続的な内省を支援するアプローチを意図的に取り入れています。
プロセス
育成ロードマップ自体の資料は数日で完成しました。しかし、本当に作りたかったのは資料ではなく、組織の文化です。そこで、メンバー全員との毎週1時間の1on1に手を加えることから始めました。育成初期は、デザインレビューや具体的なアドバイスなどティーチングの割合を多く取り、スキルレベルが上がるにつれて徐々にコーチングの割合を増やしていく、という流れです。スキルが高くなるほど「答えを教える」のではなく「問いを投げる」時間を増やし、自ら考えられる状態を目指しました。
例えば、
「今の理想の状態を100点としたら何点だと思いますか?」
「理想状態との差を埋めるために何が必要だと思いますか?」
「来週までにまず変えられそうなことは何ですか?」
といった問いを通じて、自身の目標や現状を言語化し、次の行動を自ら決めてもらうことを繰り返しました。
もちろん、最初からこの進め方を受け入れられたわけではありません。問いに対して考え込んで無言の時間が続くメンバーも少なくありませんでした(それ自体は悪いことではありません)。
しかし数か月が経つ頃には、
「今日はこういう相談をしたくて来ました」
「最近こういうことを考えていて……」
と、自らテーマを持って1on1へ来るメンバーが増えていきました。
これは単にスキルが伸びたのではなく、自ら課題を発見し、内省し、行動につなげる力が育ってきた証拠だと感じています。
また、メンバー数が増えてからは育成経験のあるリードデザイナーへジュニアメンバーの1on1を段階的に移譲しました。育成そのものを属人的にせず、組織として育成できる状態を目指したためです。
まとめ
本取り組みを通じて、デザイン未経験者を異動によって複数人受け入れ、さらにその中からマネージャーへ登用される人材も生まれました。また、ジュニアデザイナーとして採用したメンバーが約2年で組織を支える存在へと成長するなど「育つ組織」として少しずつ成果が現れ始めました。
もう一つ嬉しかったのは、組織の雰囲気そのものが変わったことです。他部署から「あのグループは雰囲気がいい」「いつも楽しそうに見える」という声をいただく機会が増え、育成が個人だけではなく、組織全体の文化にも影響していることを実感しました。
さらに、この取り組みは自組織だけに留まりませんでした。人材開発部門と連携し、マネージャー層向けのコーチングワークショップの企画・実施へと発展し、自組織で培った考え方を他組織へ展開する取り組みにもつながっています。
私にとって育成とは、知識やスキルを教えることではありません。
「自分で育ち続けられる人」を増やすこと。
そして、そのような人が自然と増えていく組織文化をつくること。
このプロジェクトは、デザイナーを育てる取り組みであると同時に、「育つ組織とは何か」を考え続けた組織デザインの実践でもありました。